【目次】 1 名義株とは何か 2 名義株解消の必要性 3 名義株の帰属 4 名義株の存否に関する調査 ➡5 名義株か否かの調査 6 解決策 |
Ⅰ 実質上の引受人が誰であるか
調査により名義株が疑われる株式の存在が明らかとなった場合には、次にその株式がどの者に帰属するのかを調査する必要があります。
東京地判昭和57年3月30日判タ471号220頁等の裁判例が述べる判断要素に従い、①株式取得資金の拠出者、②関係当事者間の関係及びその間の合意の内容、③株式取得の目的、④取得後の利益配当金や新株等の帰属状況、⑤関係当事者と会社との関係、⑥名義借りの理由の合理性、⑦株主総会における議決権の行使状況などの考慮要素に従って調査をする必要があります。
Ⅱ 株式取得資金の拠出者
はじめに、株式取得資金の拠出者が誰であるのかが重要です。
まず、関係当事者からのヒアリングにより株式取得資金の取得方法について調査を行い、ヒアリングに基づき通帳、取引履歴や払込金保管証明書を精査します。
また、口座の名義だけでなく口座の管理状況等についても調査する必要があります。例えば口座の名義人以外の者が口座を管理している場合では、株式取得資金は口座の管理者によって出捐されたと評価される可能性もあるからです。
したがって、株式取得資金が拠出原資となった口座の開設時期や開設経緯、口座の利用状況、口座内の入金の性質、届出印の管理状況、実際の住所と金融機関における登録上の住所の異同等についてもヒアリング等により調査する必要があります。
Ⅲ 関係当事者間の関係及びその間の合意の内容
実質上の引受人が誰であるかについては、実際に申込み・払込みをした者の意思又は関係当事者間の合意が重要です。仮に、名義株主とは異なる者が自己の出捐により出資払込みをしている場合でも、関係当事者間において名義株主を実質的株主とすることが合意されていたときには、名義株主が実質的な引受人となります。
このような合意の存在については、関係当事者からのヒアリングによるほか、合意書や念書、メモ、日記等関係当事者間における合意の内容が明らかとなる書面の有無及び内容を調査・検討する必要があります。
Ⅳ 株式取得の目的
株式を取得する目的も関係当事者の合意を推認するうえで重要となります。
例えば、後継者に事業を承継させる目的で、先代経営者が後継者の名義を借りて出資払込みをした事案では、先代経営者の意思としては、将来事業承継をする場合等のために、後継者にあらかじめ一定数の株式を保有させる目的で、株式を取得させたとみることが可能な場合もあります。
このような場合、先代経営者は、自ら株主となる意思をもって株式を取得したのではなく、後継者に帰属させる意思をもって株式を取得したものと解することができます。
したがって、株式取得の目的を調査においても、関係当事者からのヒアリングが重要です。
Ⅴ 取得後の利益配当金(剰余金の配当金)や新株等の帰属状況、株主総会における議決権の行使状況
名義株であるか否かの判断においては、会社がいかなる者を株主として取り扱っていたのかも重要な考慮要素となります。したがって、名義株に係る利益配当金がどのように支払われていたか、株主割当増資の際にどのように新株の割当をしていたのかも調査する必要があります。
利益配当金の支払状況については配当等の支払調書、新株等の帰属状況についてはこれまでの株主名簿や法人税申告書別表二「同族会社等の判定に関する明細書」、株主総会における議決権行使の状況については株主総会議事録や株主総会招集通知に関する郵便記録等を精査することが考えられます。
Ⅵ 関係当事者と会社との関係
特に同族経営の中小企業において株式を引き受けて、株主となろうとする者は、経営に関与することを目的としていることが通常であると考えられます。
したがって、仮に名義上の株主ではない株主が会社の経営を支配しており、名義上の株主が会社の経営に全く関与していない場合、名義上の株主ではない株主が実質上の引受人と推認されます。
例えば、引受けの際には経営に関与していなかったものの、名義上の株主が将来的に後継者となる予定がある場合には、経営への不関与をもって直ちに名義上の株主の株主権を否定することはできず、他の事情も併せ鑑みて検討する必要が生じます。事情の調査に当たっては、関係当事者からのヒアリングによる調査が有益です。
Ⅶ 名義借りの理由の合理性
他人の名義を用いて株式の引受けを受けることは、それ相応の理由があるはずで例外的な事態です。
したがって、他人の名義を用いることに何ら合理的理由が認められない場合には、名義上の株主ではない株主が株式の引き受けたものと推認することができます。
名義借りの理由については、ヒアリングが重要です。また、平成2年改正前商法下(平成3年4月1日施行)では、発起人の人数に関する規制があったため、同法下で設立された会社については、当該規制が名義借りの理由となる例が多いです。
したがって、商業登記を調査して、会社の設立の日を確認しておくことは必須です。
<続く>
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