近年の役員責任追及訴訟の動向を把握するため、平成14年以降の株主代表訴訟事件(会社が提起した訴訟に株主が共同訴訟参加したものを含む)を調査した。
この調査では、島田邦雄ほか「新商事判例便覧512号」(商事法務1618号36頁(2002年))から本村健ほか「同797号」(商事法務2404号65頁(2025年))までの「新商事判例便覧」および資料版商事法務編集部「主要な株主代表訴訟事件一覧表」資料版商事482号168頁(2024年)に掲載された、平成14年以降の裁判例を調査対象とした。上級審判決があるものについては、実質的判断がされた上級審を掲載することとした。
本記事では、平成21年~平成27年の裁判例をまとめた表を掲載する。
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No. |
裁判所 |
年月日 |
結論 |
事案の概要 |
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22 |
名古屋地裁 |
H21.2.26 |
否定 |
低廉な価格での保有ビル売却による損害賠償請求について、売却価格は時価評価に対比して不相当に低額といえないどころか、かえって時価をやや上回っている上、会社が本件売買によって何らかの損害を被ったものとは認められないとして忠実義務・善管注意義務違反を否定した。 |
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23 |
東京地裁 |
H21.10.22 |
否定 |
報道機関の従業員によるインサイダー取引につき、取締役らにそのインサイダー取引を防止することを怠った任務懈怠があるとは認められないとした。 |
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24 |
最高裁 |
H21.11.27 |
肯定 |
銀行の取締役が、取引先に対し追加融資を実行する判断を行ったことが、取締役としての善管注意義務に違反するとした。 |
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25 |
東京高裁 |
H22.3.24 |
否定 |
不当な連帯保証を理由とする損害賠償請求につき、連帯保証債務の履行請求や他の連帯保証人からの求償権行使はなく、損害が発生していないとして、請求を棄却した。 |
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26 |
最高裁 |
H22.7.15 |
肯定 |
上場会社が事業再編計画の一環として子会社の完全子会社化を企図し、同社の株式を適正価格の約5倍の金額で他株主から任意の合意に基づき買い取ったことが、取締役としての善管注意義務に違反したとはいえないとした。 |
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27 |
東京地裁 |
H24.1.31 |
否定 |
会社が代表取締役から土地を購入したことにつき代表取締役および売買を承認した取締役に対して任務懈怠責任を追及した事例において、売買により損害が生じたとは認められないとした。 |
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28 |
横浜地裁 |
H24.2.28 |
否定 |
グループ企業への低金利融資について、経営上の判断としてその裁量を逸脱した不合理なものであったとはいえず、取締役の善管注意義務・忠実義務違反を構成するとは認められないとした。 |
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29 |
福岡高裁 |
H24.4.10 |
肯定 |
準委任契約の終了に際して、会社が支払った補償金が相当な範囲を大幅に上回っており、会社取締役らの会社に対する損害賠償責任を認めた。 |
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30 |
名古屋高裁 |
H24.6.22 |
肯定 |
上場会社による実態のない会社に対する業務委託費の支払について、取締役の善管注意義務違反が認められた。 |
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31 |
大阪地裁 |
H24.6.29 |
肯定 |
上場会社が、土壌環境基準値以上の有害物質を含む土壌埋戻材を販売し、不法投棄された同材の回収を余儀なくされたことにつき、同材の生産・販売を管掌した取締役のほか、土壌埋戻材工場の工場長であった取締役について、任務懈怠責任を認めた。 |
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32 |
大阪高裁 |
H25.12.26 |
否定 |
会社の行った会計処理に関し、公正なる会計慣行に適合しない違法性は認められず、したがって、違法配当の事実も認められないと判断した。 |
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33 |
最高裁 |
H26.1.30 |
肯定 |
近く破綻が明らかな子会社に対し、貸金の回収は当初から望めなかったにもかかわらず貸付けを実行するなどしたのであるから、その経営判断につき取締役の忠実義務ないし善管注意義務違反を認めた。 |
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34 |
東京地裁 |
H26.3.27 |
肯定 |
会社法362条4項1号所定の「重要な財産の譲渡及び譲受け」に該当する社債引受けを、取締役会決議を経ないで、業務執行として決定・実行して会社に損害を与えたとして、上場会社取締役の損害賠償責任を認めた。 |
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35 |
東京高裁 |
H26.4.24 |
否定 |
不動産流動化に係る会計処理、課徴金の納付等に関して、上場会社役員の任務懈怠を認めなかった。 |
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36 |
東京地裁 |
H26.8.29 |
否定 |
代表取締役が取締役会決議を経ずに社債を引受けたことにつき、取締役らが社債引受けを知っていたとは認められないとして任務懈怠を否定した。 |
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37 |
東京地裁 |
H26.9.25 |
肯定 |
上場会社が、政治資金規正法を潜脱して政治献金をするために設立された政治団体名義で行った政治献金等は同法に反し、同献金等に関与した取締役には原則善管注意義務違反が認められるとし、一部の取締役に対する請求を認めた。 |
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38 |
高松高裁 |
H27.2.6 |
否定 |
関連会社の全株式を買い受ける株式譲渡契約の担当取締役が簿外借入による粉飾決算を看過して評価額で取得したことが善管注意義務に違反するとの主張について、原告の主張する簿外借入の事実は認められないとした。 |
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39 |
最高裁 |
H27.2.19 |
否定 |
非上場会社における第三者割当による新株発行の発行価額が、旧商法280条の2第2項に定める「特に有利なる発行価額」に当たらないとして、取締役らの損害賠償責任を否定した。 |
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40 |
東京地裁 |
H27.4.23 |
否定 |
株主代表訴訟において発電所での不正取水行為に気づくことが著しく困難であったなどとして上場会社役員らの任務懈怠に基づく損害賠償責任を否定した。 |
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41 |
大阪高裁 |
H27.10.29 |
肯定 |
MBOを実施する際、株式の公開買付価格につき買付者側の想定価格に近付けるため、根拠薄弱な利益計画による数字合わせを図り、その結果、本来不必要な出費を会社に余儀なくさせたとして、上場会社取締役に対する善管注意義務違反に基づく損賠償請求を認めた。 |
川上修平



