加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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近年の役員責任追及訴訟について-株主代表訴訟編-③

 近年の役員責任追及訴訟の動向を把握するため、平成14年以降の株主代表訴訟事件(会社が提起した訴訟に株主が共同訴訟参加したものを含む)を調査した。

 この調査では、島田邦雄ほか「新商事判例便覧512号」(商事法務1618号36頁(2002年))から本村健ほか「同797号」(商事法務2404号65頁(2025年))までの「新商事判例便覧」および資料版商事法務編集部「主要な株主代表訴訟事件一覧表」資料版商事482号168頁(2024年)に掲載された、平成14年以降の裁判例を調査対象とした。上級審判決があるものについては、実質的判断がされた上級審を掲載することとした。

 

 本記事では、平成28年以降の裁判例をまとめた表を掲載する。

No.

裁判所

年月日

結論

事案の概要

42

東京高裁

H28.2.18

否定

会社が株式譲渡契約に違反する株式買取拒否の結果損害賠償責任を負った場合に、取締役に対する会社への損害賠償請求を認めなかった。

43

東京高裁

H28.7.19

否定

上場会社において、政治資金パーティー券の購入が、政治資金規正法21条1項及び取締役の善管注意義務に違反しないとした。
〔第一生命政治資金パーティー券株主代表訴訟事件〕

44

東京高裁

H28.7.20

否定

ベンチャー企業及び継続性に疑義がある企業の株式取得について、上場会社役員(取締役ないし監査役)に善管注意義務違反がないとした。
〔テーオーシー株主代表訴訟事件〕

45

名古屋高裁

H28.10.27

肯定

取引先に対する不正な金融支援について上場会社の代表取締役及び担当取締役の任務懈怠を認めた。
なお、株主が追加した特別調査委員会及び責任追及委員会の報酬についても損害として認められた。
〔フタバ産業不正金融支援に係る取締役責任追及事件〕

46

東京高裁

H28.12.7

否定

提訴請求を受けた監査委員の善管注意義務・忠実義務の違反の有無は、当該判断・決定時に監査委員が合理的に知りえた情報を基礎として、訴えを提起するか否かの判断・決定権を会社のために最善となるように行使したか否かによって決するのが相当であるところ、提訴したとしても勝訴可能性が非常に低いと判断したことは合理的であるとして善管注意義務・忠実義務違反が否定された。
〔東芝事件〕

47

名古屋地裁

H29.2.10

否定

⑴不採算事業から撤退しない旨の経営判断が上場会社取締役の善管注意義務違反に当たらないとした。
⑵有価証券報告書に複数の事業部門ごとの営業損益を記載しなかったとしても、法令違反に当たらないとした。
〔ツノダ株主代表訴訟事件〕

48

東京地裁

H29.3.23

否定

FA契約の締結等及び顧問法律事務所に対する依頼等に関する代表取締役及び専務取締役の善管注意義務違反並びに忠実義務違反を否定し、また、取締役会の決議を経ないまま本件臨時株主総会の招集手続を遂行した被告らに過失があることは否定し難いものの、被告らの違法な招集手続と原告主張の損害との間に相当因果関係があるとは認められないとした。
〔プラップジャパン事件〕

49

東京高裁

H30.6.6

否定

不正送金などにより会社に損害を与えたとの請求について、取締役の善管注意義務違反が否定された。
〔ユニバーサルエンターテインメント事件〕

50

名古屋地裁岡崎支部

H29.10.27

肯定

上場会社取締役に、第1次決算訂正時における第2次決算訂正の原因につき調査不足の善管注意義務違反を認めた。
〔フタバ産業内部統制システム整備義務違反に係る取締役責任追及事件〕

51

東京地裁

H30.3.29

否定

不正会計に係る有価証券報告書等の虚偽記載について、上場会社代表取締役の監視義務違反及び内部統制システム構築義務違反に係る責任を認めなかった。
〔リソー教育株主代表訴訟事件〕

52

東京高裁

H30.9.20

否定

上場会社において、社債の取得につき経営判断原則に基づき取締役の善管注意義務違反を否定し、有価証券報告書等の提出に係る取締役の善管注意義務違反を否定した。
〔オービック株主代表訴訟事件〕

53

東京高裁

H30.9.26

否定

⑴上場会社において、株主総会の一任を受けた取締役会から再一任された代表取締役による取締役報酬の決定に係る善管注意義務違反の責任を否定した。
⑵代表取締役による取締役報酬の決定に係る他の取締役の代表取締役に対する監視監督義務違反の責任を否定した。
〔ユーシン役員報酬株主代表訴訟事件〕

54

東京高裁

R1.5.16

肯定

⑴上場会社において、違法行為の疑惑を指摘していた代表取締役を損失分離スキームの発覚を防ぐために解職に導くなどした行為について、それに関与した取締役に善管注意義務違反を認め、違法配当の補填責任を認めた。
⑵有価証券報告書の虚偽記載により罰金等を納付したことについて、虚偽記載がされた当時に在任中の取締役の責任を認めた。
〔オリンパス事件〕

55

神戸地裁

R1.5.23

否定

子会社の新規事業のために貸付けを行った上場会社である親会社の取締役及び執行役に善管注意義務違反はないとした。
〔シャルレ株主代表訴訟事件〕

56

広島高裁岡山支部

R1.10.18

否定

顧客情報流出事件について、企業集団における内部統制システムの構築・運用の枠組みを超え,完全子会社等に対する個別的な対応として個人情報保護法への適合性を直接的に確保することが、取締役に義務付けられていたとみることはできないなどとして、善管注意義務が否定された。
〔ベネッセホールディングス事件〕

57

東京地裁

R2.2.27

否定

⑴反社会的勢力を排除するための組織体制の整備に当たって、取締役の判断に一定の裁量が認められるとした上で、相当な反社会的勢力防止のための内部統制システムがグループとして構築されており、上場会社取締役らに内部統制システム構築義務違反はないとした。
⑵グループとしての内部統制システムに支障が生じていたとはせず、監視・是正を行わなかった取締役らの判断に裁量違反はないとした。
〔みずほフィナンシャルグループ元取締役らに対する株主代表訴訟〕

58

東京地裁

R3.11.25

肯定

子会社等を通じて自己または第三者の利益を図る目的で不正行為を行った上場会社の取締役会長について、善管注意義務・忠実義務に違反するとして調査委員会費用の損害賠償責任を認めた。
なお、会社提訴に株主が共同訴訟参加した事案である。
〔ユニバーサルエンターテインメント取締役会長による子会社等の不正行為に係る損害賠償請求事件〕

59

福岡高裁

R4.3.4

否定

取締役の労務管理に関する内部統制システム構築・運用義務違反を否定した。
〔肥後銀行過労自殺株主代表訴訟〕

60

東京高裁

R4.6.8

肯定

⑴上場会社である親会社の取締役が個人的利益を図る目的で海外子会社等にさせた貸付け、小切手振出しおよび資金提供が善管注意義務に違反するとした。
⑵完全親会社について、完全子会社に生じた損害の金額に相当する資産の減少が生じ、これと同額の損害を被ったものと認めた。
〔ユニバーサルエンターテインメント創業者元代表取締役株主代表訴訟〕

61

東京高裁

R4.7.13

否定

会社が事業再編計画の一環として、取締役の利益相反取引により他社(非上場)株式を有償取得したことについて、経営を委ねられた取締役等により将来予測等を踏まえた取得株式の価値判断がされるべきこととなるから、取得した際の株式の客観的な評価額と実際の取得額との間に乖離があったとしても、直ちに会社に損害が発生したものとみるべきでないとして、善管注意義務、忠実義務違反を否定した。[昭和ホールディングス株主代表訴訟事件]

62

大阪高裁

R4.12.8

否定

不動産の売買代金などの名目で約55億円を詐取されたことにつき、会社の規模、組織体制、同被控訴人の地位、役割に照らすと、本件売買契約の代金額が70億円と多額であったとしても、契約内容等を具体的に点検することまで求められていたとはいい難いなどとして、任務懈怠責任を否定した。
〔積水ハウス事件〕

63

東京高裁

R5.1.26

肯定

独禁法に違反した上場会社の取締役に法令遵守義務の違反を認め、課徴金納付命令の課徴金額のうち会社が自認した部分について、相当因果関係のある損害として認めた。
〔世紀東急工業事件〕

64

福岡高裁

R5.7.20

肯定

特例有限会社における株主代表訴訟において、全株主の同意なき取締役報酬増額について、任務懈怠責任が肯定された。

65

大阪地裁

R6.1.26

肯定

⑴子会社が製造する免震積層ゴムについて、国交大臣評価基準に適合していると認識ないし評価して出荷停止の判断をしなかった親会社取締役の任務懈怠が認められた。
⑵出荷済みの免震積層ゴムに前記技術的基準を満たしていないものがあることについて、国交省への報告及び一般への公表をする判断をしなかった取締役の任務懈怠が認められた。
〔TOYO TIRE事件〕

66

東京地裁

R6.3.27

否定

連結子会社の譲渡先かつ出資先である会社の株価算定及び出資を実行した経営判断について、不適切会計に至る危険をはらむ判断ではあるものの、判断の著しい不合理性を基礎づけることは困難であるとして、善管注意義務違反を否定した。
〔Itbookホールディングス事件〕

67

東京高裁

R7.6.6

否定

地震予測の長期評価は国の中央防災会議でも防災対策を決める上で検討対象となっていなかったことなどから運転停止を法的に義務付ける根拠としては必ずしも十分ではないとし、旧経営陣が巨大津波を予見できたとは認められないとして、任務懈怠責任を否定した。
〔東京電力事件〕

川上修平

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