加藤&パートナーズ法律事務所

加藤&パートナーズ法律事務所

法律情報・コラム

法律情報・コラム

新型コロナウイルス感染症対策と株主総会④(開催時の注意点)

はじめに

 本稿を始めとする一連の記事においては,新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から,企業の皆様が令和2年度の定時株主総会において,直面しうる問題点とそれに対する対応の一例を簡単にご紹介致します。企業の皆様の株主総会対応の一助となれば幸いです。

 本稿では,株主総会を会場にて開催する際の注意点についてご紹介致します。

関連記事

新型コロナウイルス感染症対策と株主総会①(開催時期の選択)

新型コロナウイルス感染症対策と株主総会②(継続会の実施)

新型コロナウイルス感染症対策と株主総会③(バーチャル株主総会)

新型コロナウイルス感染症対策と株主総会⑤(会社法施行規則・会社計算規則の改正)


株主総会開催時の注意点

1 招集手続

 現実に株主総会を開催する判断をした際には,新型コロナウイルス感染症の感染リスクをできる限り小さくする配慮をしつつ,かつ,適法な株主総会決議がなされたと評価されるようなものとすべく,配慮しなければなりません。

 まず,株主総会の招集手続においては,招集通知に,体調の優れない株主には出席を控えるように呼びかけ,書面投票や電子投票を推奨することが考えられます。このような招集通知については,一般財団法人日本経済団体連合会「新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえた定時株主総会の臨時的な招集通知モデルのお知らせ」に記載例がありますので,ご参照ください。


(1)株主に対する株主総会出席を控える呼びかけ

 株主への新型コロナウイルス感染症の感染リスクに鑑み,株主に対し株主総会への出席を控えるように呼びかけ,例年の株主総会と比して会場の規模を縮小し,出席可能な人数を制限することも,合理的な範囲であれば,株主の健康への配慮のための措置として認められると考えられます。

 また,株主総会への出席可能な人数を制限することに伴い,出席を希望する株主に事前登録するように依頼し,当該株主を優先的に入場させる措置をとることも,全ての株主に事前登録の機会を与え,株主の株主総会へ出席する権利を不当に害するものでない限り,認められると考えられます(参照:経済産業省「株主総会運営に係るQ&A」)。


(2)書面投票や電子投票の推奨

 株主総会は,招集手続が著しく不公正な場合には決議取消事由となります(会社法831条1項1号)が,新型コロナウイルス感染症の感染リスクが考慮されるべき状況下において書面投票や電子投票を推奨して決議を実施することは,招集手続が著しく不公正であるとは判断されないと考えられます。

 事前の書面投票や電子投票を行った株主に対して粗品を送付するインセンティブを付与することにより,書面投票や電子投票を推奨することも,社会的儀礼と認められる範囲を超えない限り,認められます。ただし,書面投票や電子投票の促進のみならず,会社提案への賛成を促す趣旨を含む場合には,株主の権利の行使に関して財産上の利益が供与されたとして,利益供与の禁止に違反する(会社法120条1項,東京地判平成19年12月6日判タ1258号69頁参照)と判断されることには注意が必要です。


2 事前の措置

 株主総会開催前における新型コロナウイルス感染症の感染リスクへの配慮として,入場前の株主に対するサーモグラフィ検査の実施,マスク着用の推奨,出席役員,社員に対する体調管理の徹底等を行うことが考えられます。

 そして,株主に対するサーモグラフィ検査の結果,37.5度を超える体温が検知された場合,具体的状況によっては,当該株主に対して株主総会への出席を拒否することも認められる場合があるでしょう。このような措置は,株主が株主総会へ出席する権利を奪うことになるものの,当該株主の体調等によっては,他の株主が安全に株主総会へ出席し,株主総会の秩序を維持するために必要かつ合理的な措置であると考えられるためです。

 寧ろ,企業が当該株主の出席を漫然と認め,そのために新型コロナウイルス感染症の感染が拡大したような場合には,代表取締役の善管注意義務違反や企業の安全配慮義務違反として,責任追及される可能性もあると考えられます。

 企業としては,サーモグラフィ検査の結果,37.5度を超える体温が検知された場合に,問診を行うことができる環境を整備する等して,当該株主の株主総会への出席をみとめるか否か,適切な判断ができるようにしておくことが必要でしょう。


3 議場での措置

 また,上述のとおり,株主総会の議場は多くの人が集まる場所であるため,議場においても,新型コロナウイルス感染症の感染リスクが少しでも低くなるような配慮が必要です。アルコール消毒液の設置,株主らへの注意喚起,議場内の換気,出席者のマスク着用,社会的距離を保った株主らの座席の配置などの措置を講ずることが考えられます。

(1)マスク着用義務に対して拒否する株主への対応

 例えば,企業において相当数のマスクを用意した上で議場におけるマスク着用を義務付けた場合,合理的な理由なくマスク着用を拒否する株主に対しては,議長が退場命令を出すことも認められるでしょう(会社法315条2項)。人の集まる空間における新型コロナウイルス感染症の感染リスクの高さに鑑み,出席者全員にマスク着用を義務付けることが,株主総会の秩序維持のために必要であると考えられるためです。


(2)社会的距離を保った株主らの座席の配置などの措置

 濃厚接触により新型コロナウイルス感染症の感染リスクが高まると考えられている以上,株主の座席の配置につき,社会的距離が保たれるように座席間に空間を設ける措置を講じることは,株主総会の秩序維持のために必要な措置といえるでしょう。

 しかし,そのような措置を講じることによって,来場する株主全員が入場,着席できなくなることが客観的に明らかであるにもかかわらず,複数の会場を用意する等何らの対策も取らず,漫然と来場株主の一部の入場を拒否したとすれば,株主の株主総会へ出席する権利を不当に害したといえるでしょう。そのため,このような状態で行われた決議はその方法が著しく不公正なものとして決議取消事由に該当すると判断されることには注意が必要です。

 また,来場する株主が想定外に多かったために全ての株主を入場させることができなかったような場合であっても,入場できなかった株主を株主総会に参加させることなく決議を行った場合,決議方法が著しく不公正なものとして決議取消事由に該当すると判断される可能性が高い点には注意が必要です。

 企業としては,来場株主が想定外に多かった場合に備えて,第2会場を確保した上で,第2会場の株主に対しても審議への参加,議決権の行使を認めるような体制を確保しておくべきでしょう。


(3)体調不良者

 株主総会開催中に,咳き込む等の症状のある体調不良者が見受けられた場合,他の株主から当該株主を退場させるよう動議が出される可能性があります。その際,新型コロナウイルス感染症の感染リスクに鑑み,当該株主に対して自主的な退場をお願いするのみならず,議長により退場命令を出したとしても,これは,他の株主が安全に株主総会へ出席し,株主総会の秩序を維持するために必要かつ合理的な措置として認められると考えられます。


(4)質疑応答

 新型コロナウイルス感染症の感染リスクに鑑みれば,株主総会ができる限り短時間で終了するよう,議事進行に配慮したいところです。ただし,株主からの質疑応答を極端に制限した場合,株主の質問権の不当な制限にあたり,そのような状態のまま行われた決議はその方法が著しく不公正なものとして決議取消事由に該当すると判断されるおそれがあることには注意が必要です。


トップへ戻る