加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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会社内部紛争②-取締役対会社・役員報酬等を巡る紛争-

1 取締役対会社(類型Ⅰ) 

会社内部紛争類型の1つに取締役対会社の間の紛争があります。取締役対会社の構図を取る紛争類型としては、役員報酬等を巡る紛争取締役の地位・解任を巡る紛争会社の取締役に対する責任追及を巡る紛争利益相反取引に係る紛争任務懈怠に係る紛争等)などが挙げられます。

(1)役員報酬等を巡る紛争

 役員報酬等を巡る紛争には、大きく分けて取締役が会社に対して役員報酬等ないし役員報酬等相当額を請求する場合と、会社が取締役に対して支給した役員報酬等相当額の返還請求をする場合の2つがあります。実務上多く見受けられるのは、前者のうち退職慰労金の支払いを巡る紛争です。

ア 取締役が会社に対して役員報酬等ないし役員報酬等相当額を請求する場合

 会社法上、取締役が職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(報酬等)については、取締役のお手盛り防止による株主保護の趣旨から、指名委員会等設置会社を除き、定款の規定又は株主総会の決議をもって定めることが必要とされています。そのため、株主総会普通決議等がなければ、原則として取締役の具体的な請求権も発生しないとするのが判例です(最判平成15年2月21日金判1180号29頁)。役員退職慰労金も、それが職務執行の対価として退任後に支払われる趣旨である限り、報酬等に含まれ、株主総会普通決議が必要となります。

 そこで、報酬等の支給に係る株主総会決議の有無によって、当事者の争い方も異なってきますので、以下では株主総会決議が存在する場合と存在しない場合に分けて具体的に説明します。

(ア)株主総会決議が存在する場合

 報酬等の支給に係る株主総会決議が存在する場合に争いが生じる一例としては、株主総会決議後に取締役報酬の減額・不支給に係る株主総会決議や取締役会決議がなされた場合が挙げられます。

 この点、一旦総会決議を経て報酬等の具体的な額が定められたときには、それが会社と取締役との間の契約内容となり、契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するため、当該取締役の明示又は黙示の同意がない限り、株主総会決議によってもその報酬額を変更することはできないと解されています。

 このような類型の紛争においては、①報酬等の支給を最初に決定した株主総会決議自体の効力が株主総会決議取消、無効、不存在確認等の各種訴訟によって争われるか、又は②当該株主総会決議が存在することを前提として取締役の明示または黙示の同意の有無が争われるか、若しくは③当該取締役の任務懈怠責任等による損害賠償債権を自働債権とする相殺の可否が争われることが多いといえます。

 また、株主総会決議が存在する場合に争いが生じる例として、株主総会決議が、会社の内規に従って具体的金額を決定することを取締役会等の機関に一任したにもかかわらず、一任された機関が決定をせずに放置している場合もあります。

 かかる場合において、内規の定めによると機械的に具体的な報酬額が定まり、一任された機関の裁量が認められないときには、取締役の具体的請求権は当該株主総会決議時に発生し、取締役は、会社に対して、内規に従って算定される未払役員報酬等を請求することができると解されています。

 これに対して、内規に一任された機関の裁量が認められている場合には、取締役の具体的な役員報酬等の請求債権は発生しないと解されているため、取締役は、当然には役員報酬等を請求することができません

 かかる場合には、株主総会決議に従った取締役会決議を行わないことを理由に、役員報酬等を求める取締役(元取締役)が、会社や他の取締役に対して、役員報酬等相当額について損害賠償請求を行うか、あるいは後述する株主総会決議が存在しない場合と同様の法律構成によって、役員報酬等の請求を行うことが考えられます。

(イ)株主総会決議が存在しない場合

 上述した総会決議が存在する場合の裁判例は多くはないですが、株主総会決議が存在しない場合の紛争については、比較的多くの裁判例が存在しています。

 前述したとおり、取締役の報酬等請求権は、原則として総会決議等が必要であると解するのが判例です。もっとも、総会決議等が存在しない場合であっても役員の報酬等請求権を実質的に認める裁判例が複数存在しています。

 まず、ⅰ)総会決議等が存在しない場合であっても、報酬等についての株主全員の同意があるときは、お手盛り防止という会社法361条の目的は果たされているといえるため、報酬等請求権の成立が認められると解されています。

 また、ⅱ)株主全員の同意があるとはいえない場合であっても、事実上株主の了解を得て慣行とされてきた手続を経て、報酬等の支給決定がされ、実質的に株主の利益が害されないといえる特段の事情が認められる場合には、総会決議等がないことを理由に会社が報酬等の支払いを拒絶することは信義則上許されない旨判示する裁判例もあります(東京高判平成15年2月24日 金判1167号33頁)。

 更に、ⅲ)大株主兼取締役などが内規に従った報酬等の支払いにつき承諾していたにもかかわらず株主総会に報酬等の支給に係る議案を上程しないことが不法行為に該当するとして、役員報酬相当額の損害賠償請求を認める学説や裁判例もあります。

 以上のように株主総会決議が存在しない場合に役員報酬等ないし同相当額を請求する場合には、ハードルは高いものの、複数の法律構成による救済の可能性がありますので、過去の多数の裁判例を踏まえ、具体的事案に即した適切な法律構成を採用し、緻密な主張立証を行うことのできる弁護士に依頼することをお勧めします。

イ 会社が取締役(元取締役)に対して支給した役員報酬等相当額の返還を請求する場合

 会社が取締役に対して一旦支給した役員報酬等につき、株主総会の決議を経ていないことを理由として、後日、当該取締役に対し、交付した役員報酬等相当額につき返還を求めることがあります。

 前述したとおり、株主総会決議が存在しない以上、原則として取締役の報酬等に係る具体的請求権は発生しませんので、仮に取締役が総会決議等なく報酬等を受け取った場合には、当該取締役は、原則として、会社に対し、受け取った報酬等相当額について損害賠償責任等を負担することになります。

 もっとも、前述したとおり、総会決議等が存在しない場合であっても、全株主の同意がある場合は、報酬等の支払いは有効になされたといえますし、また具体的事情によっては、会社からの報酬相当額の返還請求が信義則に反し、権利の濫用として許されないと判断されることもあります。

 この点、一旦支給した役員報酬等について、①当該取締役が取締役に就任した経緯、②受領した報酬等に対応する期間における当該取締役の業務内容や会社の業績、③報酬等に係る支給慣行及びこれに対する株主の従前の対応等から、会社が、取締役に対して、報酬等相当額の返還を求めることは信義則に反し、権利濫用として許されないとした裁判例(東京地判平成30年1月22日判タ1461号246頁)があります。

 以上のように、報酬等の支給に係る株主総会決議が存在しない場合において、会社が取締役(元取締役)に対して支給した役員報酬等相当額の返還を請求するときには、これを否定する複数の法律構成が考えられるため、かかる紛争を適切に処理するためには、役員報酬等の争いに通暁した弁護士に依頼することをお勧めします。

<続く>

会社内部紛争①-会社内部紛争の4つの類型-

会社内部紛争③-取締役対会社・取締役の地位、解任を巡る紛争-

会社内部紛争④-取締役対会社・責任追及を巡る紛争-

会社内部紛争⑤-株主対会社・経営権獲得を巡る紛争-

会社内部紛争⑥-株主対会社・会社運営の適法性、妥当性確保のための紛争-

会社内部紛争⑦-株主対取締役・取締役解任の訴え-

会社内部紛争⑧-株主対取締役・株主代表訴訟-

会社内部紛争⑨-株主対株主・株主権の帰属を巡る紛争-

会社内部紛争⑩-株主対株主・解散の訴え-

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