加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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会社内部紛争③-取締役対会社・取締役の地位、解任を巡る紛争-

(2)取締役の地位・解任を巡る紛争

 会社対取締役の構図を取る解任を巡る紛争としては、大きく分けて、取締役が会社に対して解任の効力を争い取締役の地位を主張し、併せて未払役員報酬を請求する場合と、不当解任を理由として損害賠償を請求する場合の2つがあり、前者が請求される場合には通常、予備的に後者の請求もなされることが多いといえます。

ア 解任の効力自体が争われる場合

 会社法では、株主総会の普通決議によって取締役をいつでも解任できます。したがって、解任の効力を争う者は、取締役の地位確認、未払報酬等の請求に加え、事案に応じて解任に係る株主総会決議取消、無効確認、あるいは不存在確認訴訟を提起することが通例です。

 なお、解任ではないものの、取締役の任期途中において、その任期を短縮する旨の定款変更に係る株主総会特別決議がなされた場合に、退任したとされる取締役の地位が争われることもありますが、その変更後の定款は在任中の取締役に対して当然に適用され、その変更後の任期によれば、すでに取締役の任期が満了している者については、定款変更効力発生時点において当然に退任すると解されています。

 したがって、かかる場合には、解任の効力を争う場合と同様に、定款変更に係る株主総会特別決議の効力自体について争う必要がでてきます。

イ 不当解任を理由とする損害賠償請求が行われる場合

前述のとおり、取締役はいつでも株主総会の普通決議によって解任することができますが、当該取締役の任期に対する期待を保護するため、解任に「正当な理由」がある場合を除き、会社は、解任した取締役に対して、損害賠償責任を負うこととされています。

 したがって、解任された取締役は、会社に対し、不当解任を理由として、残任期分役員報酬相当額等の支払いを求めることがあります。

 また、解任ではないものの、取締役の任期途中において、その任期を短縮する旨の定款変更がなされた場合に、任期途中で退任することとなった取締役が、会社に対し、残任期分役員報酬相当額等の支払いを求めた事案において、取締役の損害賠償請求を認容した裁判例も存在します。

 かかる紛争において主に争われるのは、①解任における「正当な理由」の存否と②「正当な理由」が存在しない場合の損害の範囲についてです。

(ア)正当な理由

 「正当な理由」がある場合とは、取締役に職務を執行させるにあたり障害となるべき状況が客観的に生じた場合と解されており、具体的には法令・定款違反行為心身の故障、職務への著しい不適任任務懈怠責任を負うような経営上の判断の失敗などが挙げられます。逆に大株主の好みといった単なる主観的な信頼関係喪失のみを理由とする場合には、「正当な理由」の存在は認められません。

 「正当な理由」の根拠となる事情は、解任決議時に会社が認識している必要はないと解されており、また、単独では正当な理由とはならない事実であっても、複数の事実を総合して正当な理由が肯定される場合もあります。

 したがって、会社としては、解任する際に「正当な理由」の有無を検討するにあたっては、複数の事情を総合的に判断する必要があり、また退任取締役からの損害賠償請求に備えるため、解任後においても、事実関係を整理して、「正当な理由」の有無を検討しておくのが好ましいといえます。

(イ)損害の範囲

 不当解任を理由とする損害賠償が争われる場合には、その損害の範囲についても強く争われる傾向にあります。

 賠償されるべき損害の範囲は、取締役を解任されなければ残存の任期期間中及び任期終了時に得べかりし利益の喪失による損害とされています。

 通常は、残任期分役員報酬相当額のみが損害として認容される場合が多く、原則として慰謝料や弁護士費用は損害に含まれないと解されています。

 退職慰労金や賞与については、これを認める裁判例もありますが、大多数の裁判例では損害の範囲に含まれないとして判断されています。これらの支給にあたっては、株主総会決議が必要となりますので、退職慰労金や賞与が損害に含まれるか否かは、株主総会決議ないしこれに代わる全株主の同意があったか否か等が重要なメルクマールとなります。

<続く>

会社内部紛争①-会社内部紛争の4つ類型-

会社内部紛争②-取締役対会社・役員報酬を巡る紛争-

会社内部紛争④-取締役対会社・責任追及を巡る紛争-

会社内部紛争⑤-株主対会社・経営権獲得を巡る紛争-

会社内部紛争⑥-株主対会社・会社運営の適法性、妥当性確保のための紛争-

会社内部紛争⑦-株主対取締役・取締役解任の訴え-

会社内部紛争⑧-株主対取締役・株主代表訴訟-

会社内部紛争⑨-株主対株主・株主権の帰属を巡る紛争-

会社内部紛争⑩-株主対株主・解散の訴え-

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