加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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会社内部紛争⑤-株主対会社・経営権獲得を巡る紛争-

2 株主対会社(現経営陣)(類型Ⅱ)

 株主対会社の構図を取る紛争類型は、大きく分けて経営権獲得(支配権維持)のための紛争と会社運営の適法性・妥当性確保のための紛争が挙げられます。

(1)経営権獲得(支配権維持)を巡る紛争

 経営権獲得のための紛争には、現経営陣の解任を巡って生じる紛争と、スクイーズ・アウトを巡って生じる紛争募集株式発行等を巡って生じる紛争などがあります。

ア 経営陣解任を巡る紛争

 株主はいつでも株主総会の普通決議によって取締役を解任することができます。

 そのため現経営陣と対立する株主が50%を上回る議決権を有する大株主である場合には、現経営陣と株主との経営権を巡る紛争は、現経営陣の解任と大株主の意向に沿う取締役の選任によって解決できる場合が多いといえます。

 また、会社内部紛争③にて前述したとおり解任に「正当な理由」がない場合には会社は取締役に対し損害賠償責任を負担することになりますので(類型Ⅰ)、定款の取締役の員数規定に反しない限りで、解任を避け、大株主の意向に沿う取締役が過半数となるように取締役を新たに選任することで解決を図ることも考えられます。

 なお、取締役の解任に関しては、定款によって決議要件を加重している会社も見受けられるため、解任に係る株主総会決議を意図する株主は、事前に定款を確認しておくことが必要です。株主には「定款閲覧交付等請求権」が認められており、会社の営業時間内はいつでも定款の閲覧又は交付を請求することができ、会社がこれに応じない場合には訴訟によって定款の閲覧交付を求めることもできます。

 

 大株主と対立する現経営陣が、自らの解任や現経営陣の意向に反する新たな取締役の選任を株主総会の議題として自発的に掲げることは通常はないと考えられますので、株主が取締役の解任ないし選任決議に至るまでには、通常以下のいずれかの方策を採る必要があります。

 まず一つ目は、定時株主総会において解任ないし選任の決議を行う場合です。

 かかる場合には、取締役会設置会社においては、株主総会は、招集通知に記載された事項以外の事項については決議することができませんので、解任決議を意図する株主は、株主総会の8週間前(これを下回る期間を定款で定めることもできます。)までに「株主提案権(議題提案権)」を行使し、意図する議題(取締役の解任ないし選任)を決議事項として掲げるよう提案する必要があります。他の株主の賛同を得るためには、議案要領通知請求権の行使や委任状の勧誘も考えられます。

 定時株主総会において取締役の任期満了等により新たな取締役の選任が議題として上程されている場合には、当該株主総会において「株主提案権(議案提案権)」を行使することで、大株主の意図する取締役を新たに選任することも可能です。

 なお、取締役会設置会社では、議題提案権は、総株主の議決権の100分の1(これを下回る割合を定款で定めることもできます。)以上の議決権または300個(これを下回る数を定款で定めることもできます。)以上の議決権を6か月(これを下回る期間を定款で定めることもできます。また非公開会社においては保有期間の制限はありません。)保有している株主に限って行使することが認められている少数株主権とされていますので注意が必要です。

 二つ目は、取締役を解任するにあたって定時株主総会まで待てない場合や、そもそも現経営陣が株主総会を開催しようとしない場合です。かかる場合には、株主による株主総会招集請求を行う必要があります。

 「株主総会招集請求権」は、総株主の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めることもできます。)以上の議決権を6ヶ月(これを下回る期間を定款で定めることもできます。また非公開会社においては保有期間の制限はありません。)前から引き続き有する株主が、議題と招集の理由を示して行使することができます。

 そして、招集請求に会社が応じない場合には、最終的には裁判所の許可を得て株主自身が株主総会を招集することとなります。かかる場合には、証拠保全、ないし違法行為抑止の観点から、会社ないし株主から、「総会検査役選任の申立て」がなされることもあります。

 株主が主導して、株主総会において意図する議題・議案を決議するためには、以上のような各種法的手続が必要となりますので、株主総会の運営に通暁した弁護士に相談の上、実行することをお勧めします。

イ スクイーズ・アウトを巡る紛争

 スクイーズ・アウトを巡っては、締め出される株主が、会社に対して、その手続上の瑕疵や内容を争って差止請求権を行使し、その効力発生後においては、その効力を争うための各種訴えを提起し、あるいは買取価格を巡って争われることとなります。スクイーズ・アウトのスキームの内、特別支配株主による株式等売渡請求については、特別支配株主と他の株主間で争われることとなりますので、類型Ⅳの「特別支配株主による株式等売渡請求」をご参照下さい。

ウ 募集株式の発行等を巡る紛争

 募集株式の発行等を巡っては、株主が、会社に対して募集株式の発行等の手続上の瑕疵や内容を争って差止請求権を行使し、あるいはその効力発生後においては、各種無効の訴えや不存在確認の訴えを提起して効力が争われることとなります。

(ア)募集株式発行等の差止め

 会社法上、株主には、「募集株式の発行等の差止請求権」が認められており、募集株式の発行等が①法令又は定款に違反する場合や、②著しく不公正な方法による発行等の場合において、当該発行等によって株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、会社に対して、募集株式の発行等をやめることを請求することができます(会210)。

 ①法令または定款に違反する場合には、取締役会又は株主総会の決議を欠く場合や、株主割当ての通知を欠く場合定款に定めのない種類株式の発行を行う場合などがありますが、取締役等の善管注意義務違反はこれに含まれないと解されています。

 また②著しく不公正な方法により行われる場合とは、取締役の支配的地位の強化のため関係者に不当に多数の株式を割当て、あるいは資金的需要がないのに募集株式を発行等して、特定の株主の持株比率の低下を意図する場合などが含まれます。

 ところで差止請求権は、募集株式の発行等を事前に差し止めるものですので、効力が生じる前(出資の履行前)に権利を行使しなければなりませんが、差止請求訴訟を提起して、この確定をまっていては募集株式の発行等の効力が生じてしまうため、実行性がありません。そこで、通常は、差止請求仮処分が申立てられ、当該保全手続の中で差止請求の可否が争われることとなります。

 募集株式等発行の事実を株主が知る機会は、公開会社であれば払込期日または払込期間の初日の2週間前までになされる株主に対する募集事項等の通知・公告などにより、また取締役会設置会社である非公開会社では、募集事項等を決定する株主総会の招集通知に目的事項が記載され、株主総会において開示されますので、これらを端緒として株主は、募集株式の発行等が行われることを把握することができます。

 もっとも、取締役会非設置会社の非公開会社においては、株主総会の招集通知に目的事項を記載する必要がなく、株主総会の議場にて動議を提出することもできますので、株主総会を欠席する株主は募集事項等を知る機会がないということもあり得るため注意を要します。

(イ)募集株式発行等の無効の訴え、同不存在確認の訴え

 募集株式発行等の手続や内容に瑕疵が存在したとしても法的安定性の観点から当然には無効とはならず、「新株発行無効の訴え」や「自己株式処分無効の訴え」によって、その効力を争うこととされています。

 当該核訴えは、非公開会社では効力発生日から1年以内(公開会社では6か月以内)に会社を相手にして、会社の本店所在地を管轄する裁判所に提起しなければなりません。

 無効原因としては、定款に定めのない種類の株式の発行等、募集事項の通知・公告を欠くなど株主に差止請求権行使の機会が与えられていない発行等、募集株式発行等の差止仮処分を無視した発行等などがあたると解されています。

 以上に対して、「新株発行不存在確認の訴え」や「自己株式処分不存在確認の訴え」は、資本金が増加した一応の外観は存在するが、払込みが実際になされていないなど新株発行等の事実自体が存在しない場合などに認められる訴えで、提訴期間に制限はありません。

<続く>

会社内部紛争①-会社内部紛争の4つの類型-

会社内部紛争②-取締役対会社・役員報酬等を巡る紛争-

会社内部紛争③-取締役対会社・取締役の地位、解任を巡る紛争-

会社内部紛争④-取締役対会社・責任追及を巡る紛争-

会社内部紛争⑥-株主対会社・会社運営の適法性、妥当性確保のための紛争-

会社内部紛争⑦-株主対取締役・取締役解任の訴え-

会社内部紛争⑧-株主対取締役・株主代表訴訟-

会社内部紛争⑨-株主対株主・株主権の帰属を巡る紛争-

会社内部紛争⑩-株主対株主・解散の訴え-

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