加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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M&A(買い手側)の基礎知識⑨-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅶ

3 法務デューデリジェンスの範囲

 法務デューデリジェンスの範囲は、ⅰ)株主構成、ⅱ)関係会社等、ⅲ)契約、ⅳ)人事労務、ⅴ)事業用資産、ⅵ)ファイナンス、ⅶ)訴訟等紛争、ⅷ)許認可、ⅸ)知的財産、ⅹ)コンプライアンス、ⅺ)環境、ⅻ)情報等、広範囲に及びます。

 しかし、費用や時間等の制約から、全てのカテゴリーについて満遍なくデューデリジェンスを実施することは現実的ではありません。

 当事務所では、買収をご検討の経営者の皆様のご予算や、デューデリジェンスに費やすことのできる時間、M&Aの目的、対象会社の属性、スキームの種類等を考慮し、必要な範囲に絞った重点的かつ効率的なデューデリジェンスの実施をご提案しています。

 以下、各種法務デューデリジェンスの概要を簡単に説明します。

(1)株主構成

 M&Aにおいては、対象会社の株主構成を確認することが極めて重要です。特に、M&A取引の手法として最もよく用いられる株式譲渡の方法によりM&Aを行う際には、買い手が安全かつ有効に株式を譲り受けるために、株主構成を確認することが必須となります。

 そのため、デューデリジェンスによって、名義株はないか、真の株主が誰であるか、隠れた株主はいるか等リスクの有無・程度、必要となる手続の内容等を調査検討する必要があります。

 また、対象会社が種類株式を発行している場合、従業員持株会がある場合、株主間契約がなされている場合、株式が担保に供されている場合などには、その内容を正確に把握するとともに、それによって必要となる手続を検討する必要もあります。

(2)関係会社等

 買収対象に子会社、関連会社といった関係会社が含まれている場合には、買収価額を適切に設定するために、デューデリジェンスによって、関係会社を含めた対象会社グループの全体像を把握することが必要になります。

 また、関係会社が買収対象に含まれていない場合においても、関係会社と対象会社が分断されることによって、いわゆるスタンド・アローン問題が生じる可能性や、対象会社が関係会社との間で対象会社にとって不利な内容の契約を締結している可能性もある等、対象会社と関係会社との関係性を把握する必要性は異なりません。

(3)契約

 契約に関するデューデリジェンスは、対象会社が事業を営む上で締結している様々な契約の内容から、対象会社の買収対象の事業に関する法律上のリスクの有無及びその程度を把握することを目的としています。

 企業は多数の契約の集合体であり、M&Aの実行により企業は対象会社・対象事業の契約の全部又は一部を承継することとなります。

 M&Aを実施する場合には通常、当該対象事業が取引契約により継続的に一定の利益をあげることを前提にそのシナジーの程度が算出され、買収価格も決定されることとなります。そのため、チェンジ・オブ・コントロール条項の有無等、取引契約の継続可能性を確認することは、M&Aの目的達成のために非常に重要といえます。

(4)労務

 人事労務デューデリジェンスの目的は、簿外債務、事業・雇用の継続に影響を与え得る人事上のリスク(キーマンの離反、大量退職など)、コンプライアンス状況、その他人事労務に関する制度や実務運用を把握することにあります。

 労務デューデリジェンスの特徴としては、他の法務デューデリジェンスと比して、価額に影響を与える事情(巨額の簿外債務等)が発見される可能性が高いことや、M&A実行後の統合作業(PMI)の観点からも重要な調査であることが指摘できます。

 もっとも、労務デューデリジェンスにおいて調査対象となり得る項目は広範であり、その全てについて精査することはスケジュールや費用の観点から現実的ではないため、優先順位の見極めや、会社のM&A担当者と弁護士との間で調査項目の役割分担を取り決める等の工夫が特に重要な分野といえます。

(5)事業用資産

 対象会社を買収するにあたって、対象会社が保有している事業用資産をM&A実行後においても間断なく使用できるかは、買い手にとって関心の高い事項です。

 事業用資産に係るデューデリジェンスの目的は、対象会社の事業にとって不可欠又は重要な資産は何か(代替性の有無)、価値ある資産は何かを把握し、これらの資産の使用継続を妨げる法律上又は事実上の障害の有無当該資産に係る権利の内容を調査し、対象会社の事業用資産の価値を適切に評価することにあります。

(6)ファイナンス

 ファイナンスデューデリジェンスの目的は、ファイナンスの概要(資金調達の手法、返済期間、返済金額、金利など)や返済状況を把握するとともに、取引実行後に資金繰りの悪化を招来し得る法律上の問題点の存否を調査・把握することにあります。

 ファイナンスデューデリジェンスの特徴としては、財務デューデリジェンスと法務デューデリジェンスとの密接な連携が必要であることが指摘できます。互いの調査結果を情報共有し、必要に応じてフィードバックを実施するなどして、財務・法務双方の視点から資金繰り上のリスクの有無・内容の検討を進めていく必要があります。

<続く>

M&A(買い手側)の基礎知識①-M&Aと弁護士の役割

M&A(買い手側)の基礎知識②-弁護士の必要性・有用性

M&A(買い手側)の基礎知識③-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅰ

M&A(買い手側)の基礎知識④-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅱ

M&A(買い手側)の基礎知識⑤-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅲ

M&A(買い手側)の基礎知識⑥-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅳ

M&A(買い手側)の基礎知識⑦-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅴ

M&A(買い手側)の基礎知識⑧-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅵ

M&A(買い手側)の基礎知識⑩-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅷ

M&A(買い手側)の基礎知識⑪-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅸ

M&A(買い手側)の基礎知識⑫-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅹ

M&A(買い手側)の基礎知識⑬-弁護士が関わるM&A手続の概要Ⅺ

M&A(売り手側)の基礎知識①-M&Aとは

M&A(売り手側)の基礎知識②-弁護士の必要性

M&A(売り手側)の基礎知識③-弁護士が関わる手続Ⅰ

M&A(売り手側)の基礎知識④-弁護士が関わる手続Ⅱ

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