加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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M&Aにおける株式交換① ― 株式交換の意義・特徴

第1 株式交換の意義

1 株式交換とは

 株式交換は、既存の株式会社の株主の有する全株式を、別の株式会社または合同会社に移転させ、前者の株主に対し、後者から金銭等(通常は後者の株式)が交付される会社の行為をいいます(769条、771条)。会社法上は、株式交換完全親会社の株式を交付する必要はなく、対価が柔軟化されていますが、税制上の問題で、株式を交付することが一般的です。

 株式交換により、前者を完全子会社(株式交換完全子会社)、後者を完全親会社(株式交換完全親会社)とする完全親子会社関係が創設されます。

 株式交換は、グループ内において持株会社を設けるなど完全親子会社関係を創設する場合、他社と経営統合する場合など企業再編に用いられます。

 また、株式譲渡と同様に、企業買収の手法としても利用されます。

  

 本稿では、原則として株式会社間の株式交換について説明いたします。

  

2 株式移転との比較

 株式交換は、前述のとおり、既存の会社間に完全親子会社関係を創設する機能を有します。また、株式交換と同様に、完全親子関係を創設させるものとしては、株式移転があります。

 両者を比較すると、株式交換においては既存の会社が完全親会社になるのに対し、株式移転においては新たに設立された会社が完全親会社になるという相違があります。

  

3 合併との比較

 株式交換は他社を完全子会社化するのに対し、吸収合併は他社を一事業部門化するため、両者は機能的に類似します。吸収合併の意義についてはM&Aにおける合併➀ー合併の意義・特徴をご参照ください。

 合併と比較した場合、株式交換は、従業員の給与体系など社内規定の統一の必要がない点や法人格が残る点でメリットがあると言われています。

 他方、吸収合併においては両当事会社一つの法人に統合されるため、株式交換と比して、より一層のコストシナジーを実現し得るといったメリットがあります。

  

4 株式譲渡との比較

 株式交換は、買収者に対象会社の株式が移転する点で、株式譲渡と機能的に類似します。

 もっとも、株式交換は組織再編行為であり、株主総会決議をはじめとして会社法上の厳格な手続を履践する必要があります。一方で、株式譲渡は取引行為であり、手続は簡便です。

  

第2 株式交換のメリット・デメリット

1 メリット

 ⑴ 組織再編税制の適用がある

 株式譲渡や事業譲渡、自己株式の取得などのM&Aは、組織再編税制の適用対象とならないのに対し、吸収合併、会社分割、株式交換については、組織再編税制の適用対象となります。株式交換など、組織再編税制が適用されるM&Aを選択すると、一定の場合に課税の繰り延べが認められるというメリットがあるといえます。

  

 ⑵ 株主の個別の同意が不要である

 株式交換は組織再編行為なので、取引行為である株式譲渡に比べて会社法上の厳格な手続が必要となります。もっとも、株式交換においては、完全子会社となる株主の個別同意が必要となりません。そのため、少数株主を排除し、完全親子関係を創設することが可能です。

  

 ⑶ 合併に比べて子会社の簿外債務を引き継ぐ可能性が小さい

 M&Aにおける合併➀ー合併の意義・特徴で説明いたしましたとおり、会社分割及び合併においては対象会社の簿外債務を引き継ぐおそれがあります。これに対し、株式交換はあくまで株式の承継であり、親会社と子会社の法人格は別です。そのため、株式交換においては、合併に比べて親会社が子会社の簿外債務を引き継ぐおそれは小さいといえます。

  

 ⑷ 通常、従業員の給与体系の統合の必要性がないこと

 株式交換はあくまで株式の承継ですので、親会社と子会社の法人格は異なります。そのため、通常従業員の給与体系の統合は必要ありません。

  

2 デメリット

 ⑴ 会社法上の厳格な手続を経る必要がある

 株式交換は組織再編行為ですので、取引行為である株式譲渡に比べて会社法上の厳格な手続を経る必要があります。

 

 ⑵ 持ち株比率の希釈

 株式交換においては、原則として親会社の株式を対価とするため、親会社の持ち株比率に変化が生じるというデメリットがあります。

M&Aにおける株式交換② ― 株式交換の手続①

M&Aにおける株式交換③ ― 株式交換の手続②

M&Aにおける株式交換④ ― 株式交換の手続③

M&Aにおける株式交換⑤ ― 株式交換の差止め・無効

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