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コーポレート・ガバナンス入門10 ―関西スーパー争奪戦⑤ 勝者はどっちだ?―

 年末で慌ただしくしている間に、"関西スーパー争奪戦"司法決戦は、関西スーパー経営陣、H2Oサイドの勝利で幕を閉じました。

 12月7日、大阪高裁は、神戸地裁の判断を覆し、関西スーパーとH2Oの株式交換差止め決定を取消しましたが、翌8日、オーケーによる最高裁への許可抗告を認めました。

 そして、戦いの最後の舞台となった最高裁は、大阪高裁の判断を是認し、オーケーの許可抗告を棄却したのです。

 報道によると大阪高裁の考え方は、投票用紙によって株主が意思を正確に表明するには、投票ルールがあらかじめ周知され、理解していることが必要であり、周知や説明がされておらず、株主が誤認したことがやむを得ないと認められる場合は、議長が投票用紙以外の事情も考慮して株主の投票内容を把握することも許容されるというものです。

 本件の場合、書面による議決権行使をしていたが総会に出席した場合、事前の議決権行使は撤回され、改めてその場で投票用紙に記入して投票する必要があることについて、株主総会であらかじめ周知も説明もされておらず、当該株主が誤認したことはやむを得ないとしています。そして、回収に来た係員とのやり取りなど投票用紙以外の事情も考慮すると、誤認により株主の意思が投票用紙と異なっていたと明確に認められ、議長が賛成票として取り扱うことも許容されるとしたのです。

 最高裁も、議決権行使者の意思が議案に賛成であることが明確だったなど、大阪高裁が認定した事実関係の下では、その判断は結論において是認できるとしています。

 この判断に従うと、株主総会実務上、投票の際などには株主に対しより丁寧な説明が求められることになります。

 

 以上の司法判断を経て、12月15日、関西スーパーはH2Oと経営統合しました。

 一方の、オーケーは保有する関西スーパーの株式を放出することを明らかにしています。

 そこで、次に問題となるのは、反対株主の株式買取請求権です。株式交換等の組織再編議案に対して反対した株主は、その有する株式の公正な価格での買取りを会社に対して請求できます(会社法785条)。当事者間で買取価格について協議がまとまらない場合には、裁判所が公正な価格を決定することになります(会社法786条)。

 「公正な価格」は、「組織再編がなければ当該株式が有していたであろう価格」(「ナカリセバ」価格)に限定されず、組織再編で得られるシナジー(相乗効果)の分配も考慮する必要があります。

 本件の場合、オーケーが公表していたTOB価格は一株2250です。

 関西スーパーは、株主に対する説明でH2Oとの経営統合によりシナジーが得られ、統合後の新会社の理論株価は2250円を上回るとして、経営統合議案への賛成を呼び掛けていました。

 仮に関西スーパーの主張が正しかったのであれば、TOB価格2250円を上回る株価でオーケーから株式を買い取らなければならないことになります。

 

 実際の関西スーパーの株価の推移を見ると以下のように推移しています((株)関西スーパーマーケット【9919】:チャート - Yahoo!ファイナンス)。


 オーケーによるTOBを期待して2,000円前後で推移していた株価は、10月29日の株主総会において経営統合議案が可決されると急落します。ところが、11月9日にオーケーが神戸地裁に株式交換差止め仮処分を申立てると株価は上昇し、同月22日に差止め仮処分を認めると2,000円近くまで戻しました。12月7日に大阪高裁で逆転すると株価は下落し、同月15日に最高裁において関西スーパーの勝利で決着すると1,000円強で推移するようになりました。

 この株価の動きを見る限り、市場はオーケーの勝利を期待していたことは明らかでしょう。そして、関西スーパーが主張するH2Oとの経営統合によるシナジーについて、疑問が呈されているとも言えるでしょう。

 ここで、関西スーパーの上位10位の株主構成を見ると、以下のようになっています(2021年3月末時点。http://www.kansaisuper.co.jp/upimages/irinfo/mtg_95.pdf)。   

 第4回、第5回で説明したとおり、上場会社において内外の機関投資家の株式保有比率は50%を超えています。ただし、機関投資家の投資は著名企業に集中する傾向にあります。

 この点、関西スーパーの上位10位の株主を見ると、機関投資家が実質株主である信託銀行保有株式については10位のうち6位に挙がるだけで、関西スーパーの取引先が目立ちます。取引先が有する株式は政策保有株式(互いに保有すると持合い)といいますが、取引先は基本的に株式発行会社の経営陣の意向に従って議決権行使をしますので、一般投資家の会社経営に対する影響力が弱められ、経営の規律が損なわれると批判されています。

 前述のとおり、市場からは疑問を呈されていた経営統合の効果ですが、66.68という僅差とはいえ可決されたのは、関西スーパーが取引先に政策保有株式を持ってもらっていたからかもしれません。

 

 オーケーは関西スーパーの約8%の株式を有していました。また、オーケー以外にも経営統合議案に反対した株主は一定数存在します。今後、関西スーパーは反対株主の株式買取請求に対応することになりますが、買取価格によっては想定より多くの資金が必要となるかもしれません。

 そのような状況を乗り越え、経営統合によるシナジーを発揮して企業価値を高めていくことが関西スーパー経営陣には求められています。"関西スーパー争奪戦"には勝利しましたが、今後歩むのは決して平坦な道ではありません。

 一方のオーケーは、関西への単独での出店方針を打ち出しています。オーケーの関西における知名度は飛躍的に向上しました。また、関西スーパー株の売却により資金を得ることもできます。

 "関西スーパー争奪戦"の真の勝者がどちらなのか、見極めるにはもう少し時間が必要です。

加藤真朗

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