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コーポレート・ガバナンス入門8 -関西スーパー争奪戦③ 舞台は大阪高裁へ-

 神戸地裁を舞台とした、関西スーパー争奪戦

 神戸地裁は、11月22日にオーケーによる株式交換差止め仮処分を認め、26日には異議審でも関西スーパーの主張を退け、同様の結論を維持しました。

 30日には、関西スーパーは保全抗告を申立てており、法廷闘争の舞台は大阪高裁に移りました。 

 前回、ゴチャゴチャと法律の話をしましたが、報道等によると神戸地裁の決定は至ってシンプルでした。

 神戸地裁は、オーケーの採用したマークシートによる投票方法に焦点を当てています。

 マークシートによる投票ですから、賛否のいずれかにマークします。そして、いずれにもマークせずに投票用紙を提出した場合は「棄権」、投票用紙を提出しない場合には「不行使」として取り扱われます。

 「棄権」と「不行使」とでは全く意味が異なってきます。簡単に言ってしまえば、「棄権」は「反対」と同じ意味なのです。「棄権」は、出席議決権数(分母)には算入しますが、「賛成」(分子)には含めないのです。一方の「不行使」は、出席議決権数にも含みませんので、決議の成立に影響を与えないのです。

 関西スーパーの株主総会では、上記取扱いを投票用紙に明記した上で、議長もその旨説明し、議場内でも繰り返しアナウンスされていました。



 裁判所は、マークシートによる投票方法について、「決議要件の充足が客観的に判断可能となり、かつ、会社が恣意的に出席株主による議決権行使の結果を操作することを困難にする方法」と評価しています。

 そして、議長の投票方法の宣言に対し出席株主から異議がなかったことにより、出席株主は投票用紙以外の方法によっては議決権を行使することができないという制約に同意したとします。

 また、議場閉鎖→投票用紙への記載→投票用紙の回収→議場閉鎖解除という取扱いを行ったことから、出席株主には、公正な決議を確保するという観点から、遅くとも議場閉鎖が解除された後は議決権行使の撤回や内容が変更・操作されることはないという期待が生じるとします。

 その上で、出席株主は投票用紙を用いた投票以外の方法では議決権行使できず、関西スーパーもそれ以外の方法での議決権行使を一部の株主に認めることはできないとし、投票用紙を回収箱に入れた後訂正できるとしても議場閉鎖の解除前までに限定されると判示したのです。

 
 マークシートによる投票方法、
そして出席株主がその方法をどのように捉えたかという点に着目した、ある意味シンプルな、分かりやすい判断です。基準が明確で、会社側の恣意的な運用を防止するという観点からは説得的な判断と言えるのではないでしょうか。



 結局、裁判所は、出席株主の議決権の行使内容はマークシートへの記載か提出・不提出という事実でのみ把握できるとして、株主であるA社の代表取締役B氏がマークをせずに投票箱に入れた行為は「棄権」、すなわち議決権は行使するが、賛成ではないという意思としか解することができないとしました。そして、本来「棄権」でもあるにもかかわらず「賛成」として扱った株主総会の決議の方法について、法令違反があるとし、株式交換の差止めを認めたのです(会社法796条の2第1号)。

 
 もちろん、関西スーパー側は錯誤その他色々と主張していますが、神戸地裁は排斥しています。

 とはいえ、大阪高裁で結論が逆転する可能性もまだ十分あります。大阪高裁が判断するにあたって、神戸地裁が下した結論も影響するでしょうが、その影響は限定的ではないかと考えます。

 関西スーパー・H2Oが株式交換の効力発生日を12月1日から15日に延期したので、大阪高裁が検討するにあたっての時間的制約も少し緩やかになりました。これほど珍しく、世間の耳目を集めている案件ですから、一からしっかり審理するでしょう。

加藤真朗

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