加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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コーポレート・ガバナンス入門5 -機関投資家の影響力拡大とスチュワードシップ・コード-

 前回は、バブル崩壊後に株式の持合いが解消され、現在では上場会社の株主構成として国内外の機関投資家の保有比率が50%を超えている話をしました。海外機関投資家の保有比率は約30%と高く、著名企業では海外機関投資家の保有比率が高くなる傾向にあります。

 その結果、上場会社に対する機関投資家の影響力は大きくなりました。

 そもそも、投資家は何故投資するのか。もちろんリターンを得るためです。

 日本国内を見ると東証(一部、二部、マザーズ、JASDAQ(スタンダード、グロース)、TOKYO PRO Market)に上場している会社だけでなく、名証(一部、二部、セントレックス)、福証(本則市場、Q-Board)、札証(本則市場、アンビシャス)に上場している会社もあり、上場会社は3800以上あります。世界を見渡すと数多の上場会社があります。投資対象は株式だけではありません。債券、不動産、貴金属、石油等。これら星の数ほどある投資対象からリターンを求めて当該会社の株式に投資するのです。

 株式の持合いが広く行われていた時代には日本企業の株主への配当は欧米と比較して低いと言われていましたが、株主構成の変化に伴い株主への配当は大幅に増加しています。

 下の図は、立憲民主党がアベノミクス批判に利用しているものです。

 これを見ると資本金10億円以上の企業において、1997年と比較し、2018年度の配当金は6倍以上に増えています。投資家はリターンを求めているのですから、投資家の力が強くなれば、経常利益が約3倍に増加している状況では当然の結果と言えなくもありません。

 しかし、平均従業員給与については全く増加していないのはどう考えるべきなのでしょうか。企業にとって最大のリソースは"人"であるはずです。その能力を有効に活用するために、人材への投資を拡大することも企業の持続的成長に必要ではないでしょうか。


 機関投資家の影響力の拡大
は、株主総会における議決権行使にも表れています。機関投資家が、会社が提案する議案に反対票を投じることが珍しくなくなりました。特に敵対的買収防衛策、役員退職慰労金に係る議案については、反対する傾向が顕著です。

 機関投資家の保有比率が大きい会社の経営陣は、機関投資家の議決権行使の動向を意識せざるを得ない状況です。

 そして、機関投資家の議決権行使に大きな影響力を持つのが議決権行使助言会社です。代表的な米国のISSグラスルイスについては報道で目に付くことも多く、ご存じの方も多いでしょう。個人的には、どこまでその会社の実態に即した的確な"助言"がなされているのか疑問がない訳ではないですが、間違いなく無視できない存在です。

 また、投資家の中には、"物言う株主"または"アクティビスト"と呼ばれるファンドもあります。前回説明したとおり、会社法上認められる株主提案権を行使する例も増加しています。経営陣と激しく対立する例も見受けられます。


 これら機関投資家の株式保有比率の増加、影響力の拡大を会社の成長に結びつけようとしたのが、アベノミクス下のコーポレート・ガバナンス改革です。以前説明したコーポレートガバナンス・コード策定の前年である2014年にスチュワードシップ・コードが策定されました。正式名称は『「責任ある機関投資家」の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために』という長いものです。コーポレートガバナンス・コードと共に英国が本家であるため、『日本版』という訳です。2017年、2020年に改訂されています。

 スチュワードシップ・コードは、機関投資家向けの行動原則です。企業との建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)を通じ、企業の企業価値の向上持続的成長を促すことによって、顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図るのが目的です。

「責任ある機関投資家」の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫(スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会(令和元年度) )

 乱暴に言うと、機関投資家は顧客・受益者のリターンを増やすために企業が成長するようにしっかり働きかけなさい、といったものです。

 スチュワードシップ・コードを受け入れ表明した機関投資家300を超えています(令和3年)。

 コーポレートガバナンス・コード及びスチュワードシップ・コードの付属文書として「投資家と企業の対話ガイドライン」も策定されています。これは、投資家と企業との対話において、重点的に議論することが期待される事項を取りまとめたもので、2018年に策定され、2021年に改訂されています。

投資家と企業の対話ガイドライン(金融庁)

 多くの機関投資家は、短期ではなく中長期的な投資リターンを目指していると言われています。その意味で、持続的な成長中長期的な企業価値の向上を目指すべき企業との間で利害は一致します。スチュワードシップ・コード策定から7年。今や"エンゲージメント"というカタカナ英語で表現されている方策(対話)を具体的にどのように実施すれば効果的なのか、その検証、そして精緻化が望まれます。

 

加藤真朗

(続く)

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