加藤&パートナーズ法律事務所

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法律情報・コラム

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コーポレート・ガバナンス入門7 -関西スーパー争奪戦② バトル!第2ラウンドの始まり-

 H2Oとオーケーによる"関西スーパー争奪戦"については、H2O・関西スーパー経営陣側の経営統合案が10月29日臨時総会において66.68という超僅差で3分の2の賛成を得て、決着したはずでした。

 ところが、報道によると、11月9日に、オーケーが神戸地裁に経営統合(株式交換)の差止め仮処分を申立てたとのことです。

 裁判所をリングとしたバトルの第2ラウンド開始のゴングが鳴らされることになったのです。

 オーケーが差止めの根拠とするのは『総会検査役』による報告です。

 総会検査役とは、総会に係る招集手続き及び決議の方法を調査する役割を担っており、会社又は一定の要件を充たす株主が、株主総会に先立ち裁判所に選任を求めることができます(会社法306条)。通常は弁護士が選任されます。

 総会検査役は、調査結果を裁判所に報告し(同条3項)、報告書の写しを会社及び選任を申立てた株主に交付します(同条7項)。

 本件では関西スーパーとオーケーの双方が総会検査役の選任を申立てたようですので、オーケーは総会検査役から交付を受けた報告書の写しに基づいて経営統合の差止めを求めています。



 オーケーが問題としている事実は以下のようなものです。

 関西スーパー株主であるA社が、書面による議決権行使では賛成としていたにもかかわらず、議場おける投票では、賛否を明らかにしない"白票"を投じたのです。

 上場会社では、書面による議決権行使書面投票)が認められています(会社法298条1項3号、東証上場規程435条)。書面投票をしたとしても、株主総会に出席すると書面投票は撤回されたことになります。

 通例であれば、本件でもA社が出席したことにより、書面投票は撤回したことになります。

 そして白票は棄権として扱います。報道によると、関西スーパーでも一旦はA社について棄権として扱い、統合議案否決の結果を総会検査役に伝えたとのことです。

 ところが、その後A社を賛成として扱ったことによって、ぎりぎり統合議案は可決されました。

 これに対し、議場で白票を投じたのだからA社は棄権したと扱うべきではないか、A社を賛成として扱ったのは違法ではないかというのが、オーケー側の主張です。

 ここで、似た案件として、アドバネクス事件があります。同事件には、色々な論点がありますが、本件と類似している点を紹介します。

 アドバネクスの株主総会では、役員選任議案に対し、株主から修正動議が出ました。

 書面投票で既に会社提案に賛成していた株主(銀行)から派遣されていた行員は、白紙の投票用紙を会社側に交付しています。そのため、会社提案に対する銀行の議決権行使は棄権として扱われました。

 結局修正動議が可決された取扱いとなり、その決議の取消しが裁判所で争われました。

 地裁判決(東京地判平成31年3月8日 1574号46頁)は、そのまま棄権として扱いましたが、高裁判決(令和元年1017金判1582号30)は、そもそもその行員には議決権行使をする権限は銀行から授権されていないとして、会社提案に賛成した書面投票を有効としたのです。すなわち、会社提案が可決されていたと判示したのです。

 関西スーパーの問題の株主A社の場合、株主総会に出席していたB氏は、代表取締役だったとの情報があります。

 もしその情報が正しいとすると、アドバネクス事件とは異なり、B氏に議決権行使の権限がなかったとは言えません。会社法上、代表取締役は、業務に関する一切の裁判上・裁判外の権限を有するからです(会社法349条4項)。

 一方、単なる一般社員(従業員)であったのであれば、アドバネクス事件と同様の判断(書面投票が有効)になる可能性が十分あります。

 B氏が代表取締役であった場合であっても、A社が取締役会決議で統合議案に賛成すると決めていたときはどうなるでしょうか。

 判例の考え方を参考にすると、B氏の議場における投票がA社の取締役会決議に反することを、関西スーパーが知り又は知ることができた場合、B氏の議場における投票(棄権)は無効であって、書面投票が有効と判断されるかもしれません。出席すると書面投票は撤回されたと解することとの関係が少し気になりますが。

 また、関西スーパーは、心裡留保(民法93条1項但書)、錯誤(民法95条1項1号)といった意思表示の規定を持出し、B氏の議場における投票は無効又は取消されたなどと主張することも考えられます。

 ほかに、決議がいつの時点で成立していたかについても問題になると予想されます。開票作業が一旦終わり、総会検査役に結果(否決)が知らされた時点で統合議案について否決する決議が成立していたと解することもできるでしょう。

 逆に、例えば議事が再開するまでは投票の撤回を認めるべきとの見解もあり得るかもしれません。


 色々、法律的なややこしい話を書きましたが、詳細な事実が分かっていないこと、ピッタリの同種事案がないことから、なかなか予測は困難です。私も会社対株主の事案を何度か経験しており、どのような司法判断が下されるか興味は尽きません。


 もっとも、"関西スーパー争奪戦"の第2ラウンドスタートで私も予定が狂ってしまいました。本来、『コーポレート・ガバナンス入門』と銘打ったシリーズですので、関西スーパー争奪戦②で『政策保有株式』、同③で『企業価値』と流していこうと考え、着手していたのですが、裁判を目の前にしてそれどころではなくなってしまいました。

 私の予定が狂ったのは遅筆ゆえの自業自得ですが、争奪戦関係者の方々は大変なご苦労だと思います。

 とくに、B氏の投票を受け付けた、関西スーパーの社員の方のご心労はいかばかりか、本筋とは違いますが気になってしまいます。

加藤真朗

(続く)

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